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総力戦と社会の変化について

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まず、そもそも総力戦とは如何なるものであるのかということだけど、



総力戦とは一言で言い表せば「交戦国全ての人々を巻き込んだ国家国民のありとあらゆる力を結集して行う形の戦争である。」と言える。



そこにプロの軍人・戦闘員とそうではない一般人・非戦闘員との区別はなく、軍事、経済、技術等の能力が動員され、



国民生活は全て戦争遂行の為に組織されて全ての国民は様々な方法により戦争に関与するものだと言える。[1]



加えて、従来の戦争とは異なり敵の攻撃は軍事力・施設のみならず、その軍需産業、食料・工業生産施設をも破壊目標とし、国民の生活を麻痺させることも厭(いと)わず、



心理面での影響も重要となるので自国民の士気高揚を図りつつ、敵国民の戦争意欲を無くす宣伝工作、つまりは心理戦を仕掛ける。これらを「総力戦」と呼ぶ。



その勝敗は技術力、生産力の有無・度合いによって決まり戦場で決定することはほぼ無いと言える。[2]



そして、総力戦の歴史を見てみると、古くはヨーロッパのドイツ統一戦争にその萌芽が見られた。[3]



その後のアメリカ南北戦争、南アフリカ戦争等様々な戦争と二度の世界大戦



(結果的に総力戦となった第一次、あらかじめ準備された総力戦の第二次世界大戦)でそれは明白なものとなった。



総力戦は社会を変化させる。どう変化させ得るのかと言えば、イギリスの歴史家アーサー・マーウィックの論によればそれは四つあり、



第一に破壊と混乱によってで、その二つは以前より良い状態への再生の衝動を生み出し社会変化へと繋がる。



第二にそれ自体の試練によってで、総力戦下においては軍事、社会、経済、政治的制度が戦争遂行に耐えられるのか否かという試練に晒され能力主義となる場合が多い。



第三に参加で、先程述べた様に能力主義となる等して、社会の様々な活動に参加する権限や力を奪われていた人々(労働者階級、女性、民族的少数派等)に、



社会参加の条件が生まれること。(身近な例えとしては会社で能力はあるが煙たがられ、窓際等に普段追いやられている人が、経営難等会社の非常時に呼び集められることが挙げられる。)



第四に心理的側面で、戦争によって心理的衝撃を被ることにより、



戦争が何か新たなものに繋がるはずとの感覚が生じることによる知的・芸術的変革がもたらされると言うもの。[4]



具体的には国家の拡大化だ。第一次世界大戦前、一般のイギリス国民は警察と郵便局以外は生涯を通じ国家機関とは接触することはないと言われていたが、



この様な自由主義的な見えない国家はこの大戦により過去のものとなり、国家権力の集中強化と行政機構の肥大化がこの大戦の顕著な特徴だった。[5]



また、バーナード・ウエイツは官僚機構としての国家が戦争遂行と結びついて肥大化することや、



国家が年金制度の準備と科学技術研究の奨励、教育制度の拡大といった領域で積極的な活動をしたとしている。[6]



それらを詳しく述べると、年金制度は



民間人を対象とした強制加入の年金制度は、1889年に世界で初めてドイツ帝国初代首相オットー・フォン・ビスマルクが始めた。[7]




と言われ、日本の場合最も古いものは軍人の恩給であり、



1875年の海軍退隠令及び1876年の陸軍恩給令に始まり、1883年には文官恩給令が制定され、同時に太政官に恩給局が設置された。この他にも1882年には警察官、1890年には教員に関する恩給制度が制定されているが、当初は部署によってバラバラに恩給制度が制定されたために複雑になってしまった。そのため、1923年に恩給法が制定され、制度の一本化が図られた。[8]




教育制度については今でこそ当たり前となっている学ラン・セーラー服等の制服、平等に配られる給食、



朝のマラソン、識字率を向上させる読み書き算盤等は元々戦争で戦う兵隊を育てる・軍隊が由来となっている。



戦争を通じて国民に対する義務や負担の平等化(平準化)は政治参加の権利や利益の平等化を人々に正当なものと確信させた。平準化の概念がまさにそれだ。



国民を戦争協力に総動員する国家は国民に最低限の生活を保証する必要があり、第一次世界大戦中に多くの国家は社会政策を拡充した。



それによって福祉国家的性質を帯び始めました[9]総力戦により社会階層は相対化、社会の構成員は平準化される[10]こととなった。



以上が総力戦・総力戦による社会変化だと考える。






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[1]戦争学原論 210p 8行目より



[2]戦争学原論 210p 12行目より



[3]戦争学原論 211p 4行目 より



[4]戦争学原論 218p 16行目より



[5]戦争学原論 242p 10行目より



[6]戦争学原論 242p 16行目より



[7]年金Wikipedia



https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B4%E9%87%91#.E6.97.A5.E6.9C.AC 八行目終わり付近より 文献p46(Pensions at a Glance 2015, OECD, (2015), doi:10.1787/pension_glance-2015-en, ISBN 9789264249189)



[8]恩給Wikipedia



https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%81%A9%E7%B5%A6#.E6.81.A9.E7.B5.A6.E3.81.AE.E6.AD.B4.E5.8F.B2 恩給の歴史より 文献 小倉襄二「恩給制度」(『国史大辞典 2』(吉川弘文館、1980年) ISBN 978-4-642-00502-9)坂本重雄「恩給(近代)」(『日本史大事典 1』(平凡社、1992年) ISBN 978-4-582-13101-7)一杉哲也「恩給(2)」(『日本歴史大事典 1』(小学館、2001年) ISBN 978-4-095-23001-6)



[9]戦争学原論 243p 3行目より



[10]戦争学原論 243p 13行目より